Social Book Cafe ハチドリ舎 イベントリポート

広島平和公園近くにある、人と人 人と社会 広島と世界をつなげるブックカフェ ハチドリ舎で、月に20〜30ほど開催しているイベントをピックアップして、リポート!

二世という呪縛からの解放。

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二世と聞くとどんなイメージが浮かびますか? 政治家、起業家、芸能人にスポーツ選手など二世と呼ばれる子どもたちは、多かれ少なかれ葛藤を抱きます。

有名人にはマスメディアのスポットが当たりやすいのですが、陰ながら苦しむ二世もいるのです。その一つが、カルト宗教の二世です。

今回は、親が宗教家、しかもカルトと呼ばれる宗教の二世です。それも教祖や幹部といった上層部ではない末端の会員なのです。

 

 ゲストのアオイさんは、厳格な規律があるエホバの証人という宗派であり、宗派外の人との交際は布教活動以外は認められていません。それでも、他の宗教家と関わってみよう強く決心し、4ヶ月越しに、やっとハチドリ舎の坊主バー企画に参加できたのです。そこでの話がきっかけとなり、今回の企画につながりました。

 

それでは、内容を見ていきましょう。

 

「知ることで優しくなれる」「自分が生きやすい社会」「当事者に会うことで、頭で考えていることと実際との溝を埋める機会」会って知るシリーズと題されたハチドリ舎でのイベントです。

冒頭に店主安彦さんから企画の説明があり、同じような境遇の方の再現VTRが流れました。

あまりにも衝撃的な内容に言葉がありません。特に「折檻」という名の暴力行為です。エホバでは親が子どもに対してさまざまな道具を用いてお尻を叩いたりして、しつけを行うというのです。

まるで映画にもなったダヴィンチコードに出てくる鞭で自分を痛めつける原理主義者のようだ。さらには、親同士でどういった折檻方法がより効果的なのかをお互いにシェアしたり競い合ったりしているというから、どこの国の話なのだ?という動揺が会場に広がります。戦時中なのか?遠い異国なのか?昔々の黒歴史なのか? いやいやここ日本の、現在のお話だ。

 

ついでトークセッションです。

安彦:いつ、信者になったの?

アオイ:中学2年のときかな。4歳の頃、両親の仲がうまくいってなくって母がDVを受けていたようで、そのタイミングで勧誘の訪問があって。そこから母が信者の前段階の研究生となり、私も連れていかれるようになった。

安彦:どういう手続きがあるの?

アオイ:はじめに集いに参加、学校で訓練を受けて布教に出て伝道者となり試験に受かれば、プールに沈んで浮かぶ入水の儀式を経て、正式に信者として入信となりますね。

 

信者になるための試験があるというのはちょっとした驚きです。誰でも入れるわけではなく、選ばれし人のみが入れるという選民思想的要素を感じます。しかし、中学生だと周りが気になる年頃なだけに、よく信者になろうと決意できたなとある意味感心です。でも実は、強制的な雰囲気を自分の意思と勘違いしたのか、それとも小さい頃から接していると案外そうでもなくなるのか。周りの環境の影響って見えないだけに、恐いですね。

安彦:母親はエホバのどこに惹かれたんだろうね?

アオイ:子育ての悩みを相談してたら、聖書で子育てや人生がうまく生きますって言われたりしたところかな?

安彦:実際、良くなった? それともエホバの活動が現実逃避になったとか?

アオイ:現実逃避かな。”楽園に行ける”と言われて脳内麻薬でハイになってるって感じで。それで母は信者になる前に離婚して、エホバの地域の団体施設が私たちの子育てをサポートしてくれた。

 

悩みを相談するうちに信者となった話は聞いたことがあって、きっかけはどこにでも潜んでいるのだと再認識させられました。”楽園に行ける”というあまりにもキナくさいキーワードなのに、藁をもすがる思いだったのか、それともあまりにも追い込まれていて正常な判断ができない状況だったのかはわかりませんが、とにかくその道を進まざるを得ない状況に同情します。日本の男尊女卑の構造的問題が、悪い方に進展した現象ではないでしょうか。

 

安彦:クリスマスがないって聞いたけど?

アオイ:4歳の時、カトリックの幼稚園に通ってたんだけど、父親が買って来た立派なツリーを母が捨てちゃって、今まで祝ってくれてた誕生日も祝ってくれなくなって急に世界がひっくり返っちゃった。「まもなく神様が、この世の人を滅ぼしてハルマゲドンがくる」て言われてものすごく怖かった。空から火の玉が降ってきてパニックになった人たちや死体が転がっているイラストを普通にに見せられて。

安彦:そういった一般家庭でやっていることができないのは試練だっけ?

アオイ:そう。ストレスだったけれど、子どものときって母親の存在は絶対的で、彼女をセーブする人がいないから家庭の中で生き残るためには黙って従うしかなかった。

 

4歳です。多感な時期です。カトリックの幼稚園に通っていたらクリスマスはきっとビックイベントの一つでしょう。でも、祝えません。お父さんが買ってくれた思い出のツリーは捨てられ、誕生日も家では祝ってもらえない。4歳ですよ。そういう習慣がない家庭だったら話は別ですが、今まではあった、が、急になくなった世界。離婚もしているし、相当辛かったと思います。私だけなんで?と恨んだかもしれません。でも何かできる訳でもなく従うしかない。やる瀬ないです。

 

トラウマになるようなイラストも効果覿面だったようで、よっぽど怖い思いをしたのでしょう。恐怖の大魔王がやってくるという20世紀末の予言がありましたが、それよりもひどいです。なんせ神様がやっちゃいますからね。ノアの箱舟もそうでしたっけ。でも、信じれば楽園へ行ける。

すなわち”今現在”は捨てちゃったんでしょうね。だって子育てストレスに、DVにと母親はもう、現世に生きる望みを見出せずに幼い子供を巻き込んでうさんくさい話を信じ込んでしまったのですからね。壮絶。

 

安彦:ところで入水の儀式ってどんな感じ?

アオイ:プールに身体を沈められるんだけど、強制的にやらされる人が多い。でも、私は進んでやった。中二のときに、他の信者がお金を出してくれて施設見学に行って、綺麗で豪華な建物に思わず感動してしまって自分で入信を決意して。

安彦:それは学校に行きながら?

アオイ:うん。学校の勉強と塾以外に、週3で1回2~3時間の信者の勉強会と母親と奉仕活動と言う名の家々をまわった勧誘をしてました。母親は朝の新聞配達以外は仕事をせずに、もっぱら宗教活動にはまってて。30年前だけど、月8万円ぐらいで私と弟二人を養っていましたね。なんていうか彼女は頭ではいいことをやっているつもりで一生懸命に奉仕活動をしていたんだけど、子どもたちにお金がかかるということに頭が回っていなくって。「うちは独立採算性だ!」なんて言ってて必要なものは自分で買うしかなくって。だから奨学金などでやりくりして。そんなんだから周りの信者から哀れられて優しくしてくれて、それでますます「エホバのおかげ」とことあるごとに彼女は口にするという悪循環で。

 

強制でやらされた人は可哀想ですが、進んでやったというのはなんとも言えません。そのきっと豪華絢爛なシンボリックな建物を勧誘のネタにしているという戦略はさすがです。見事に純粋な中学生をその気にさせました。

他にもきっと多くの方が陥った巧妙なトラップの一つなのでしょう。巧みの人の心理を操る術を心得ているカルト宗教の魔の手は、いつ私たちに襲ってくるかわかりません。それだけ現代の人の心が弱くなっているのか、そもそも人の心自体が弱いのか、それとも弱いとか強いではないのか?よくわからない、というのが率直な気持ちです。

そうよくわからない。なぜ生まれたのか?なぜこの親なのか?なぜエホバなのか? でも答えはきっとありません。自分の外には答えはないのです。自分の中で、自分の頭だけで考えて答えを作るのです。それが、襲いかかる魔の手に立ち向かう、または切り抜ける手段だと思います。


他のサイトですが、関連した有名な漫画の記事が載っています。参考までにリンクを記載しておきます。

 

gendai.ismedia.jp

 

ddnavi.com
それでも、アオイさんは二世として優秀な証人として布教活動を続けていました。家庭の生活を顧みない母親の元、弟二人を抱え。若いうちはよかったそうです。体力もやる気と達成感もきっとあったのでしょう。そうしてそこに救われているという洗脳もあったのだと思います。

とはいえ、やはり無理をするとどこかにガタがくるのが自然の摂理であり、もちろん人間も人工ではなくて自然の一部。自然と宗教との乖離に身と心が引き離されてしまい、ついに30代に入って精神的に病んでしまいます。

そこからもたらされていた福音の崩壊がはじまりました。すでに職を持っていない母親は一家の屋台骨を失い、徐々に奇行が増えて狂気の道へ進むのです。

そんな状況を把握した病院側がまるでキリストのようにアオイさんに手を差し伸べたのです。今では、結婚をして幸せな家庭を築いていますが、長年染み付いた諸々の規律がまだまだ苦しめるそうです。

SNSの発達やメディア発信のおかげで、似たような境遇の人たちとつながったり情報を交換し合ったりしてお互いに励まし合い、それが脱会につながっているそうです。

可哀想な親の元に育った子どもの環境は可哀想です。ですが、過去と他人は変えられません。変えられるのは自分と今の行動です。それが未来へ繋がるのです。

あなたはどんな未来を望むのでしょうか? 私は明るい、楽しい、輝かしい未来を望みます。

「わたしだけじゃない」「なんだかおかしい」「くるしい」

そんな状況にもしいるようでしたら、思い切って外の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。あなたの頭ではなくて、心が求めていることを。

 

ハチドリレポーター つじっち